米ファイザーと独BioNTechの新型コロナウイルスに対する革命的なmRNAワクチンの接種が明日から始まるが、このワクチン開発にいたるまでの経緯が実に感慨深いので紹介してみる。まさに、大逆転ストーリー。1/22
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
まずは、なぜこのmRNAワクチンが革命的であるかについて。
一つは凄い効果。
2万2千人のワクチン接種者と、同数の偽薬(プラシーボ)接種者で二回目の接種からの感染者数を比較すると、偽薬接種者では162名が感染したのに対し、ワクチン接種者では8名。実に95%の予防効果!https://t.co/LZvVmP5W4B
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二つ目の理由がスピード。新型コロナウイルスの遺伝子情報が公開されたのが今年1月10日。4月29日に治験が開始して、僅か7ヶ月後の12月11日に認可された。3月の時点では早くて1年と言われていたので驚異的なスピード。3/https://t.co/gfhSxPoKY6
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効果と安全性がこれ程早く検証できたのは、感染による致死率が高かったことにより、数万人規模の被験者の獲得が容易だったことと、感染抑制に失敗した国では(偽薬投与)被験者での感染が短期間で十分に認められたこと。感染が蔓延していないと、短時間ではなかなか効果を確認できない。4/
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そして、革新的な技術が高い効果と開発スピードを可能にした。しかし、この新技術の有用性が認められるまでの道程には、一時は挫折の崖っぷちまで追い込まれた女性研究者の存在があった。当時、ペンシルバニア大学の教授であったKatalin Karikoさんだ。5/https://t.co/OzKmibcG5x
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旧来のワクチンは、弱毒化した生ワクチンや、不活性化ワクチンが主流だった。弱毒化や不活性化には、ウイルス固有のノウハウの蓄積・検証が必要。ウイルスの扱い・操作もリスクがある。6/
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ウイルス感染防御に効果的な中和抗体は、主にウイルス表面のタンパク質(コロナの場合、スパイクタンパク質)を標的としている。抗体がスパイクタンパク質に結合してブロックすると、ウイルスは細胞に感染できなくなる。7/
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抗体ができるためには、抗原提示細胞が「異物」を取り込み、その一部を細胞表面に提示して、免疫細胞を活性化する必要がある。コロナウイルス全体でなく、スパイクタンパク質だけ異物として細胞に取り込ませることができれば、感染せずともスパイクタンパク質への抗体をつくることが可能となる。8/
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しかし、新しいウイルスタンパク質だけを大量生産して効果的なワクチンをつくるのは技術的に難しかった。タンパク質の性質は配列によって大きく変化するので、実験してみなければ分からない部分が大きい。Karikoさんが注目したのは、タンパク質を作る情報の鋳型であるmRNAだ。9/
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あるタンパク質の配列情報をコードするmRNAを細胞に取り込ませることができれば、細胞内のタンパク質合成装置であるリボソームがmRNAの情報を読み取り、目的のタンパク質を作らせることが可能だ。そのタンパク質は「異物」として免疫細胞に認識され、それに対する抗体が作られる。10/
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
ところが、このアイディアは長い間研究者たちには不可能と考えられ、Karikoさんは研究費申請でことごとく失敗した。研究費を獲得できなったKarikoさんは、常勤から非常勤教授へと格下げとなった。11/
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外部から導入された「異物としてのmRNA」は不安定ですぐ壊れてしまい、目的のタンパク質を生産できない。さらに、細胞は、ウイルスなどの外部から進入してきたRNAを認識し、感染防御する自然免疫のシステムが働いて炎症反応をおこしてしまう。12/
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実際、人工的に作ったmRNAを細胞に導入すると自然免疫システムが発動してしまう。しかし、一方、細胞内に元々ある自分自身のRNAは自然免疫を発動しない。何故か?ここでKarikoは、細胞内のRNAは様々な化学修飾を受けていることに注目した。13/
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
人工的に作ったmRNAに化学修飾を施しておくと、mRNAを細胞内に導入しても自然免疫システムを発動しないことが分かった。この発見は2005年に発表されたが、当初それほど注目されていなかった。14/https://t.co/dXWFG1WZPP
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
KarikoとWeissmanは特許を取り、会社を立ち上げたが大学は2010年にライセンスを売ってしまった。しかし、この発見を見逃さなかった研究者たちいた。現在mRNAワクチン開発をリードするBioNTechの創設者Ugur SahinとOzlem Tureci、Modernaの設立に係わったDerrick Rossiだ。15/https://t.co/OmXuEmN665
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
報道では、有名製薬会社ファイザーの名前に隠れがちになるが、mRNAワクチンの技術的基礎を作ったのはドイツのBioNTechだ。創設者のUgur SahinとOzlem Tureciの夫妻は、二人とも幼少時にトルコからドイツに移民してきた。彼らは、元々mRNAワクチンによる、癌の免疫治療に注目して研究をしていた。16/
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二人は企業家でもあるが研究者であり、インパクトのある研究論文を連発していた。しかし、mRNAワクチンの実用化はなかなか軌道に乗っていなかった。新技術に対する副作用などの警戒に加え、mRNAの不安定性ゆえの超低温での保存などがネックになっていたことは想像に難くない。17/
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2013年、BioNTechは、それまで大学からの支援を得られず、mRNAワクチン開発競争の蚊帳の外におかれたKarikoさんを、にsenior vice presidentとして迎え入れる。ペンシルバニア大学の同僚に、BioNTechのウェブサイトがまだ無いことを知って笑われたという。18/
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そこへ到来してのが新型コロナのパンデミック。BioNTechは蓄積していた技術と、すでにインフルエンザワクチン開発で提携したファイザーと組むことにより、この新技術の安全性チェックのための大規模治験を短期間でクリアしてしまった。19/
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
今後、実際のワクチン製造、運搬、保管などの技術的問題、数百万、数千万単位でのワクチン接種でどのような副作用が出るか注視する必要があるが、新型コロナウイルスによる致死率とワクチンの高い防御効果を天秤にかけると、高リスク層からの積極的接種には大いに期待できる。20/
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
このmRNAワクチンが画期的なのは、他の病原体や癌治療、遺伝子治療など広い応用が可能な点だ。今回のmRNAワクチンで十分な安全性が確認されたならば、コロナ禍があったからこそ、人類は新しい医療技術を手に入れたということが言えることになるかもしれない。21/
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
周囲から先駆的研究の価値を認められずとも、先駆的な論文を出し、人類の医療に多大な貢献をし、しかもオリンピック金メダリストの娘さんを育てられたKarikoさんもハンガリーからの移民。こういう人がいると、少々の障壁でへこんでる場合でないと思った次第である。22/END
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 13, 2020
追記: 多くの方に読まれ、日曜日の午後を潰した甲斐がありました。ちなみに、私はこれらのワクチン開発関係者と利害関係(COI)も面識も全くありません。株も、祖父の「株だけは手を出すな」という言葉を馬鹿正直に守って、どこの株も一株も持っていません。
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 14, 2020
接種できるなら、すぐにでも接種したいです。ただ、生産力、流通などの問題があって、今は医療関係者、養護施設関係者が優先となります。私は、自宅業務可能なので、優先順位は低くなります。
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 14, 2020
RNAは、DNAやタンパク質に比べて不安定なので、超低温での保管が必要で、大量生産、輸送、保管の難易度が上がります。しかし、Modernaワクチンは冷蔵保存で大丈夫と主張しており、今後のデータを注視したいです。また、コストはアストラゼネカのアデノウイルスベクターワクチン系より高いです。
— Hironori Funabiki (@HironoriFunabi1) December 14, 2020