上の2行が、今年1月17日までの条文案。

東京弁護士会も反対を表明
あらためて検察庁法の一部改正のうち検察官の定年ないし勤務延長にかかる「特例措置」を設ける部分に反対し、「国家公務員法等の一部を改正する法律案」から当該部分を削除することを強く求める会長声明

2020年05月11日
東京弁護士会 会長 冨田 秀実

1 政府は、本年1月31日、2月7日に63歳で定年を迎えることになっていた東京高検検事長の勤務を、国家公務員法の勤務延長規定を根拠に半年間延長するとの閣議決定をした。
 また、政府は、3月13日、さらに国家公務員法等の一部を改正する法律案(内容として検察庁法の一部改正を含む。)を閣議決定し、これを国会に提出した。
 当会は、本年3月17日の会長声明で、1月31日の閣議決定については、検察官の人事をそのように恣意的な法解釈の変更で行ったことは「検察官及び検察組織の政権からの独立を侵し、憲法の基本原理である権力分立と権力の相互監視の理念に違背する」と抗議して撤回を求めた。

2 また、3月13日の閣議決定による「国家公務員法等の一部を改正する法律案」に含まれる検察庁法の一部改正部分についても、63歳になった者は、検事総長を補佐する最高検次長検事や、高検検事長、各地検トップの検事正などの役職に原則として就任できなくなるが(役職定年制)、「内閣」が「職務遂行上の特別の事情を勘案し(中略)内閣が定める事由があると認める」(検察庁法改正案第22条第5項)と判断するなどすれば、特例措置として63歳以降もこれらのポストを続けられるようにするとの内容について、「このような法律改正がなされれば、時の内閣の意向次第で、検察庁法の規定に基づいて上記の東京高検検事長の勤務延長のような人事が可能になってしまう」「これは、政界を含む権力犯罪に切り込む強い権限を持ち、司法権の適切な行使を補完するために検察官の独立性・公平性を担保するという検察庁法の趣旨を根底から揺るがすことになり、極めて不当である」と批判し、国家公務員法等の一部を改正する法律案のうち検察官の定年ないし勤務延長に係る「特例措置」を設ける部分を撤回し、憲法の権力分立原理を遵守して検察官の独立性が維持されるよう強く求めた。

3 然るに、本年1月31日の閣議決定は未だに撤回されておらず、内閣の恣意的な法解釈変更による東京高検検事長の定年後の勤務延長は続いている。
 また、国会に提出された「国家公務員法等の一部を改正する法律案」は、上記のような問題のある検察庁法の一部改正部分を削除することも分離することもなく、5月8日にも国会内の内閣委員会にて審議入りし、コロナ禍に対する対策・対応に国民の関心が集中している状況の中で、短時間で一括して審議され国会で議決されようとしている。
 先に指摘した会長声明で述べたとおり、検察官は「公益の代表者」(検察庁法第4条)であって、刑事事件の捜査・起訴等の検察権を行使する権限が付与されており、ときに他の行政機関に対してもその権限を行使する必要がある。そのために、検察官は独任制の機関とされ、身分保障が与えられているはずである。にもかかわらず、内閣が、恣意的な法解釈や新たな立法によって検察の人事に干渉することを許しては、検察官の政権からの独立を侵し、その職責を果たせなくなるおそれがあり、政治からの独立性と中立性の確保が著しく損なわれる危険がある。
 検察官の政治からの独立性と中立性の確保が内閣や国会を牽制する司法権の適正な行使を補完するものである以上、今回の改正法律案は、憲法の基本原理である権力分立に反し、許されないものである。

4 当会は、あらためて、憲法の権力分立原理を遵守して検察官の独立性を維持するために、政府に対し、本年1月31日の閣議決定に抗議してその撤回を求めるとともに、国会及び各政党・国会議員に対し、「国家公務員法等の一部を改正する法律案」のうち検察官の定年ないし勤務延長に係る「特例措置」を設ける部分を削除すること、その削除されない限りは「国家公務員法等の一部を改正する法律案」を成立させないことを、強く求める。