倒産
①出版社が倒産して印税が入らなかったことがありました。その年をどう越したのか憶えていません。借金をしまくりどんな仕事でもいいからと引き受け歯を食いしばりました。借金も返し忘れかけていた頃、出版社の残務整理が始まりました。弁護士が切り出しました。
「あなたの取り分は以下です」— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
②印税三〇分の一にも満たない金額でした。電話でのやりとりは事務的で人間味がありませんでした。騒いでも法的に決まった物だけしかもらえないのです。思い出すと怒りがこみ上げてきます。その時です。なぜか社長に無理を聞いてもらった昔が蘇りました。前借りをしたり取材費を出してもらったり。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
③「弁護士さん。社長に伝えてくれませんか」と切り出しました。「僕の頂く分はもうけっこうです。再起のために使ってください。それよりアメリカへ遊びに来られませんか。今度は僕が面倒みるから」なんのてらいもなく口から出ました。言っているうちに喉が熱くなってきました。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
④弁護士さんの口上が止みました。奇妙な静寂が訪れました。
「…確かに伝えます。アメリカには行けませんが彼は喜ぶと思います」
弁護士さんの声は心なしか明るくなってました。電話を切ると家内がたっていました。文句を言われるかなと思いました。— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
⑤「いくらだと言われたの?」
「2万少々」
家内は黙って聞いていましたが、突然、
「アハハ。アンタその金とったら私この家を出て行くよ」
と言いました。見ると目が真っ赤でした。印税が入らず辛い年の瀬を過ごしたのを思い出したのでしょうね。この時ほど家内が愛おしかったことはなかったです。— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
80年生きてきて何が残ったのだろう、と思う時、家内だけは死ぬまで残ってくれるなあ、と思えます。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
後で聞いた話ですが、厳しい話ばかりでした。金寄越せと怒鳴りっぱなしだったとか。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
決してお金では買えないもの、それを追い求めました。小説を書く、これお金では買えません。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
助けられました。苦境に落ちた時、頼りになりました。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
辛いときはおたがい。黙って倒産手続きを終了されるよりけじめをつけようとしているのだと思い直しました。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
そうですね。忘れるな、より刻めですね。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
はい、支えになってあげてください。帰るところはそこしかありませんから。
再起の話は聞きません。元気でいてくれることを祈って居ます。— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
私が感化されたのかも。苦労させました。今もですが。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
倒産の張り紙を見てそれからの年末までを詳細に書けば小説になるかもね。ドラマと言えばドラマです。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
新人賞に落ちまくった頃、じっと耐えてくれた日々を思い出します。あの時の苦労を思えばと言ってくれています。私も頑張れました。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020
それほど強烈には意識してなかったですが、辛い時代を経ていますので立場を変えればどうかと思った次第です。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 30, 2020
最初、事務的なやりとりにむかつきました。まるで人じゃないんです。やがて「必ず伝えます」と言ってくれた辺りから変わっていきました。
— 馬場信浩 (@schoolwars1) November 29, 2020