花粉症をなくすため、花粉を持ってない杉を見つけて商品化した富山県森林研究所

優良無花粉スギ「立山 森の輝き」について

富山県森林研究所では、これまでにスギ花粉症対策の一環として無花粉スギ「はるよこい」(図-1)を全国で初めて品種登録し、平成23年から都市部の緑化用として普及が始まっていますが、林業用苗としては同時進行で図-2に示したように精英樹を交配親とする優良無花粉スギ「立山 森の輝き」の開発も行ってきました。
無花粉になる性質(雄性不稔性)は、一対の劣性遺伝子(aa)によって支配されており、メンデル遺伝することから、最初に発見された無花粉スギの母樹(aa)と雄性不稔遺伝子をヘテロ型(Aa)で保有する富山県(タテヤマスギ)の精英樹・小原13号を交配し、この集団の中から9年かけて無花粉で初期成長と通直性に優れた1個体(F1小原13)を選抜しました。このF1個体に石川県の精英樹・珠洲2号(Aa)を交配して得られた無花粉スギが「立山 森の輝き」です。
この名前は、富山県のシンボルである立山の名前を入れることで富山県の品種であることがイメージされることや、無花粉なだけでなく成長等に優れていることが表現されているという理由で、全国の応募の中から選ばれました。

・「立山森の輝き」の種子による大量増殖
「立山 森の輝き」の種子による大量増殖を目的に、室内採種園と呼ばれる効率的に種子を採取できる施設の造成も行いました(図-3)。これは大型のビニールハウスの中に雄性不稔遺伝子をホモ型(aa)で保有する「F1小原13」とヘテロ型(Aa)で保有する精英樹「珠洲2号」を混在させて、4台の扇風機で室内の空気を循環させ自然交配させています。そうすることによって、従来の袋がけによる交配作業も必要なくなり、省力的かつ効率的な種子生産が可能になりました。
現在、この採種園は当所に4棟あり、年間4万本程度の苗木生産をしています。

・「立山森の輝き」の普及
富山県では、森林資源の循環利用とスギ花粉症対策の一環として、平成24年から「立山 森の輝き」の本格的な普及が始まりました。また、森づくりの新たな取り組みとして、優良無花粉スギ「立山 森の輝き」普及推進事業を進めており、スギ林の伐採跡地への植栽を支援しています。
今後、「立山 森の輝き」のような無花粉スギの植栽が進むにつれて、緩やかではありますが、将来の確実なスギ花粉飛散量の軽減に繋がると期待されます。



無花粉スギ「はるよこい」について

 今や国民病とまで呼ばれ大きな社会問題になっているスギ花粉症対策の一つとして,林業分野ではどのようにしたらスギ林からの花粉飛散量を少なくできるかが緊急の課題となっています。
 そんな中,富山県森林研究所(旧林業試験場)では,春先になっても全く花粉を飛散しない無花粉スギを開発し,「はるよこい」と命名して品種登録の出願をしました。
 この名前は,全国3,327件の応募の中から決定され,童謡にもあって親しみやすいうえ,花粉の飛ばないさわやかな春が来てほしいとの願いが込められています。
(※「はるよこい」は、平成19年3月22日に品種登録されました。)
1.特徴
 「はるよこい」は平成4年に富山市内の神社で偶然発見された無花粉スギ(タテヤマスギの突然変異体)の種から育成した品種で,「花粉がない」「初期成長がよい」「さし木の発根能力が高い」といった特徴を持っています(写真-1)。
 このスギは,外見上普通のスギと同じでなんら変わったところはありません。花粉がつまっている雄花も普通のスギと同じように形成されていきます(写真-2)。
 しかしながら,雄花の中を顕微鏡で詳しく観察してみると,花粉の基となる細胞(花粉母細胞)は,作られるものの,途中から花粉粒が肥大していき,最後には全く花粉がなくなってしまいます(写真-3)。
 一方,このスギからとれた種子の発芽率も普通のスギと変わりなく,苗の生育も順調であることから,種子をつける雌花の機能は正常です。
 このように花粉が作られない性質は一般的に「雄性不稔(ゆうせいふねん)」と呼ばれ,スギの場合,一対の劣性遺伝子(aa)によって支配されていることが明らかになりました(無花粉スギのデータベース参照)。

2.今後の苗の供給
 現在,「はるよこい」のさし木用の穂を安定的に採れるよう,採穂園を整備しました。平成23年から,都市部の緑化用として年間500~1,000本程度の普及が始まっています。