貧困層に毎月5万円を支給する実験

このプロジェクトの特徴は、支給される現金を使用するのに制限がないということ。プロジェクトを率いたチームがパイロット実験を行ったところ、「貧困を経験した人々は何が必要で何が必要ではないかを理解している」という予測が導きだされたそうです。実際にプロジェクトをスタートしてみたところ、被験者が必要としたものは多岐多様に渡り、実験前から予測するのは不可能だったことがわかったとのこと。現金の支給によって食べものを購入する人もいれば引っ越す人もおり、心配が少なくなり、残業を減らすことができ、家族や友人と過ごす時間が増えたことが示されました。ある母親は、生活の心配をすることなく娘の誕生日プレゼントに靴を購入することができたといいます。母親は「靴を買えた」という行為以上に、自分がいい親だと感じられたと報告しています。

「政府が現金を支給すると人々は働かなくなる」という意見はこれまでも見られるところでしたが、SEEDプロジェクトによって示された結果はこれとは真逆のものでした。例えば、被験者の一人であるトーマスという人物は金銭的な余裕ができたことで次のキャリアについて考える余裕ができ、子どもと過ごす時間を増やしながら、より支払いのいい仕事について調査し、準備し、申し込むことができたとのこと。現金支給を受けたことで「時間」が生まれ、初めて次のステップに進む余裕が生まれたわけです。

他の被験者についても同様のことが言え、この余分な5万4000円によって人々が得た最も価値のあるものは「時間」であることがわかりました。親となる時間、休む時間、コミュニティの一員になる時間などさまざまですが、ある人は副業として行っていたLyftのドライバー業をやめ、ある人は家族と過ごすために賃貸アパートの頭金を払うことができました。余分なお金があることで、引っ越しして通勤時間を削減したり、残業時間を減らしたりして、「時間」を買うことができます。シーラという女性は支給を受けたことでストレスが減り、「夜によく眠れるようになった」と語っています。

SEEDの対象となった家族にとって、月5万4000円の支給は、月収の30%の増加に相当します。もちろん、SEEDによる現金の支給は、全ての問題を解決するわけではありません。質の高い仕事、労働組合の強化、医療、教育、住宅コスト削減など、問題解決にはより大規模な社会契約を再考する必要があります。しかし、Economic Security ProjecのNatalie Fosterさんは「大きな問題の解決策はスピーチから生まれるのではなく、何が可能なのかを示し、提唱し、再構築することから生まれます」としてこのプロジェクトの重要さを強調しました。