「ブルーベリーは目にいい」は嘘

「ブルーベリーに含まれるアントシアニンが目にいい」という話を、第二次世界大戦の逸話として聞いたことがある人も多いでしょう。曰く、「イギリス空軍のあるパイロットの好物がブルーベリージャムで、そのおかげで夕暮れでも物がはっきりと見えた」と。

しかしこの宣伝文句は、実はレーダーの性能を敵国ドイツに知られないようにするための方便でした。しかも、その当時、夜目に効果があるとされていたのは「ニンジンのカロチン(ビタミンA)」であり、ブルーベリー(のアントシアニン)ではなかったのです。
あの時代、「ビタミンAを大量に摂取すると夜間視力が向上する」という説は世界的に支持されていました。日本軍もビタミン注射などを採用していたほどです。そしてイギリスは、灯火管制で真っ暗だったため夜目が利くことが重要とされており、国を挙げてニンジンを食べるようキャンペーンを行っていました。「ドクター・キャロット」なんていうゆるキャラも存在していたんです。
そんななか、イギリス空軍は、夜間戦闘でドイツの爆撃機を多数撃墜するという戦果をあげはじめます。これ、本当はレーダーの性能が向上したおかげなんですが、敵国ドイツに悟られないよう、「ニンジンのおかげで夜目が利く撃墜王がいる」という宣伝を行ったんですね。このとき英雄に祭り上げられたのが「猫目のカミンガム」こと、ジョン・カミンガムです。オーストラリア国立図書館のデータベース「Trovo」では、1952年3月14日の新聞に「第二次世界大戦中で最も成功した嘘において主役を演じた」と書かれているのを確認できます。
ちなみに、現代医学においても、ビタミンAやビタミンB群は目にとって必要な栄養素であるとされています。特にビタミンAは、欠乏すると夜盲症の原因になる可能性があります。しかし、たくさん摂取したからといって、もとの視力以上に能力が向上するわけではないのです。
世界最大の論文データーベース「Pubmed」で検索を行うと、21世紀に書かれたブルーベリーの効能を否定する論文がたくさん見つかります。

Pubmed:検索ワード「Bilberry+eye」
Pubmed:検索ワード「Buleberry+eye」

たとえば2014年の論文「Blueberry effects on dark vision and recovery after photobleaching: placebo-controlled crossover studies.」では、夜間視力のブルーベリー効果はプラセボであると結論づけていました。

21世紀になって、このような論文がたくさん登場するようになった理由は、「ブルーベリーが目にいい」という“常識”が世間で幅を利かせるようになってきたからでしょう。特にサプリメントなどはどんどんエスカレートしており、近視や乱視、疲れ目、緑内障、白内障などにも効果があるかのように匂わせる表現が使われていたりします。が、そこに医学的なエビデンスはありません。当然ながら、当局の認可を受けたり、「医薬品」を名乗ったりすることはできないのです。

ブルーベリーの効果についてお尋ねをいただくことがしばしばあります。知り合いに勧められたり、子供が買ってくれたりするようです。効果を証明した論文があるとかテレビが取り上げたとか聞くと信じたくもなります。

既に買ってしまった方には申し訳ないですが、ほとんどの方にとっては無効だと思います。

金儲けのネタになっているに過ぎず、いかにも効果がありそうな広告にだまされないように注意して下さい。好きな方がブルーベリージャムを召し上がるのは構いませんが、大金を払ってエキス顆粒や錠剤を買う価値はありません。

ブルーベリー神話の由来

ブルーベリーが一時大ブームになっていました。今はだいぶ下火になりました。2003年当時は患者さんからもブルーベリーについての御質問をたびたびいただきました。

ブルーベリー神話が誕生したきっかけはテレビでした。「みのもんたのおもいっきりテレビ」とか「あるある大事典」とかいった番組がブルーベリーを取り上げました。ちなみに「あるある大事典」は後に納豆ダイエットの実験結果捏造で番組が中止になっています。

さらに健康雑誌が追随してブルーベリーは素晴らしいとはやしたてました。
 
NHKの「ためしてガッテン」が取り上げたのも大きかったようです。番組の内容自体は必ずしもブルーベリーを無条件に礼賛するような内容ではなかったのですが、NHKが取り上げたということで信じる人が増えた事実は否めません。

アントシアニンが豊富

ブルーベリーが眼に良いと言われるのは、アントシアニンという物質がが豊富に含まれているからです。ただし、クランベリー、カシス、プルーン、ぶどう、ラズベリー、紫イモ、小豆など多くの植物に含まれていて、決してブルーベリーだけの専売特許ではありません。

アントシアニンは、網膜にあるロドプシンという物質の再合成を助けます。ロドプシンには、網膜に映った映像を電気信号に変換して脳に伝えるという大事な役割があります。ロドプシンはものを見る時に光で分解されてしまいますから、つねに再合成する必要があります。その再合成を助けることから、アントシアニンが眼の病気に有効なのではないかと期待されたのです。

暗順応には効果がある

研究の結果、「暗順応が早くなる」という効果は証明されました。

明るい所から暗い所に入るとすぐにはものが見えません。時間が経つと目が慣れてきて、だんだん見えるようになります。このことを「暗順応」と言います。ブルーベリーを食べると、暗順応にかかる時間が短縮され、暗い所でも早く目が見えるようになります。ですから、「夜暗くなると見づらい」という症状には有効かも知れません。

ただし、望めばいくらでも明るい照明をつけることが可能な現代の生活において、暗順応がどれほど重要かは疑問です。

それに、アントシアニンの効果は長続きしません。暗順応が早くなるのは食べたその時だけの話です。毎日ブルーベリーを食べ続けなければ意味がありません。

疲れ目に効く?

アントシアニンが疲れ目に効くという説があります。いい加減な説で、私は信じません。

この説によると、コンピューターの画面を見続けた時などは網膜のロドプシンが大量に消費されるために網膜の感度が悪くなって疲れ目になるので、アントシアニンによってロドプシンの再合成を活発にさせれば疲れ目が改善するのだそうです。

えっ?初耳。普通、疲れ目というのは「ピントを合わせる毛様体筋を使いすぎて筋肉疲労をおこした状態」をさします。ロドプシンの不足が原因というのは新説、というより珍説です。

この説は商売上の必要から無理やり作った理屈だと思います。暗順応に効くだけでは薬としてあまり売れそうにないので、はるかに数が多い眼精疲労に効くと拡大解釈をして、証明もされていないことを宣伝しているのでしょう。

近視・乱視・白内障には無効

近視にも効く、乱視にも効く、老眼にも効く、白内障にも効く、目の病気すべてにブルーベリーが効く???

ここまで来ると完全にデタラメです。ロドプシンの再合成と何の関係もありません。だまされてはいけません。

うますぎる話に注意

うますぎる話には注意せよ、と言います。常識で考えれば何にでも効くなどということがあるはずがありません。

口コミは話に尾ひれがつきやすいものです。昔からそういうことはよくありました。お茶が日本に伝わってきた時は万能薬とされていたそうです。ヤツメウナギが目の病気すべてに効くともてはやされたこともありました。もちろんそんな効能があるはずありません。
 
健康食品は薬と違い、科学的に効能効果を証明する必要がありません。それだけいい加減な話が多いので御注意ください。

20世紀生まれの新鮮な果実、
注目の「アントシアニン色素」
 ブルーベリーは、ツツジ科スノキ属に分類される北米原産の低木性果樹です。その果実がエレガントなブルーになり収穫されることからブルーベリーと呼ばれています。今世紀初頭から改良がすすめられた20世紀生まれの果実で、ブルーベリージャムが国内で店頭に並んだのは1970年代の後半からという、文字通り新鮮な果実です。成熟した果実は、濃い青紫色になりますが、これは、アントシアニン色素と呼ばれ、水溶性の色素です。このアントシアニン色素が、眼によい効果があると最近一躍注目を浴びています。

「薄明かりの中でも物がはっきり見えた!」夜間飛行のパイロットが証言。
 ことの起こりは、第2次世界大戦中に始まります。あるイギリス空軍のパイロットが、ブルーベリージャムが大好物で、毎日、パンの厚さと同じくらいブルーベリージャムをたっぷりつけて食べていました。そのパイロットが、夜間飛行、明け方の攻撃で「薄明かりの中でも物がはっきり見えた」と証言したのです。その話から、イタリア、フランスの学者が研究を開始、その結果、野生種のブルーベリーのアントシアニン色素が、人間の眼の働きをよくする効能があることがわかったのです。

 人間の網膜には、ロドプシンという紫色の色素体があり、このロドプシンが光の刺激を脳に伝え「物が見える」と感じているわけです。ところが、眼を使っているとロドプシンは徐々に分解されてしまいます。また、年をとることによってだんだん減少していくこともわかりました。研究の結果、アントシアニン色素を摂取すると、このロドプシンの再合成作用が活性化されることが判明したのです。つまりアントシアニン色素によりロドプシンの再合成が活発になれば、眼の疲労がとれ、視野がぐっと広がり、夜間でも暗闇に目が慣れる時間が著しく早くなるという効果が現れてくるわけです。

パソコン、TVゲーム、眼の酷使に速効性、ヨーロッパでは医薬品として製造。
 その後も研究は進み、アントシアニン色素を摂取後、4時間後に効果が現れ、24時間持続することが確認されています。かなりの速効性が期待できるのです。副作用も全くないこともわかりました。天然の果実に含まれる色素ですから安全なわけです。

 会社や学校でのコンピュータなどOA機器の導入やTVゲームなどの普及、勤務時間の変化、あるいは受験勉強や夜間長距離運転による目の酷使など、現代のさまざまな眼精疲労や眼の疲労感にはとくに有効といえます。また、網膜の機能性低下や白内障を防ぎ、糖尿病が原因の眼の病気予防にも役立ちます。

 ヨーロッパでは、多くの研究、臨床試験が重ねられ、1976年イタリアで初めて医薬品として製造が承認されました。その後もヨーロッパをはじめニュージーランド、韓国など、多くの国で色素を抽出した粉末や錠剤が、医薬品として広く利用されています。

青紫色に秘めた、強力な抗酸化作用。
 ブルーベリーが人間の眼に効くという以外に、強力な抗酸化作用があることが注目されています。ガンや脳卒中など、成人病の発病、あるいは老化やさまざまな症状には、かなりの割合で活性酸素が関与しているといわれます。この過剰に発生した有害な活性酸素を抑える働き(抗酸化作用)、または活性酸素を消去する作用を、ブルーベリーのアントシアニン色素が強力に持っていることが実証されたのです。

 この色素の抗酸化性を、ビタミンE、茶タンニンなどと比較した最近の研究の結果、ブルーベリーのアントシアニン色素は、これらに匹敵するか、または上回る強い活性があることがわかりました。米国農務省に属する栄養研究所の発表によると、米国産の43種類の果実と野菜の抗酸化作用を比較したところ、ブルーベリーが最高値を示し、ナンバーワンであることも証明されました。活性酸素と深い関わりのある種々の疾患、たとえばガンや自己免疫疾患、心臓血管系疾患などの予防、改善、また老化防止などに有効であると期待されます。

まだまだいろいろな働きがいっぱい!
 また、アントシアニン色素は、人体のコラーゲン(組織を維持する体内のタンパク質)を基質とした結合組織、たとえば軟骨部や靱帯、腱(ともに筋肉と骨とを結びつける組織)などを強化する働きがあります。それに加えて炎症が起こっている結合部分で、コラーゲンを破壊する酵素(体内での化学変化を促進する物質)を阻害して、コラーゲンの合成を促進するので、傷の回復を早める役割もあります。そのうえ、筋肉をリラックスさせる作用があって、月経時の痛みや不快感の軽減にも役に立つとされています。女性の悩みを解消する秘薬ともいえるでしょう。

 さらに、このアントシアニン色素にはビタミンPのような作用があるといわれています。ビタミンPは、毛細血管の抵抗性を高め、毛細血管から血がにじみでる性質、すなわち毛細血管透過性を抑制する作用があることが知られています。毛細血管を強化することにより、脳内などでの血管の損傷を防いでいるのです。加えて、血液の成分の一つである血小板が凝固することを抑制するので、血液をさらさらにして、血管の老化や循環障害を改善してくれます。

豊富な食物繊維含有量。
 この他、ブルーベリーの果実成分の中で注目すべきは、食物繊維の量が極めて多いことです。そもそも果実は食物繊維を多く含んでいるのですが、中でも多いといわれているキウイフルーツやバナナをはるかに上回る果実中最高の食物繊維を含んでいるのがブルーベリーです。
 食物繊維を豊富に摂取することは、整腸作用、便秘解消に有効であり、したがって大腸ガンの予防にもなるのです。
(日本ブルーベリー協会)