そういえば「国の借金」という話をすると、上には上がいまして、やれジンバブエだのギリシャだの、昨今だったらイギリスだのと言われますが、もっとものすごいのがいます。薩摩藩です。
今から200年ほど前の薩摩藩の借金は500万両。
現在の価値だと1兆円です。
人口100万足らずの国がw— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
ちなみに薩摩藩の年間税収が14万両程度だったので、税収を全て返済に費やしても35年。
実際はそんなの不可能ですから、もう完全に破綻している状態です。
なんでこんなことになったかというと、いろいろ理由はありますが、— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
薩摩というのは関ケ原で家康に敵対し、逆ギレ喧嘩アタックをしたにもかかわらず、領土を安堵された国です。
なんでそんな特別待遇が許されたかというと、それだけ徳川に恐れられたからです。
つまり、江戸幕府開闢250年間、ずっと「仮想的」扱いされ、経済制裁をくらってたようなもんなのです。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
薩摩にくだされた経済制裁がどんなものかというと、とにかくまぁ巨大な公共事業、治水工事だの幕府の城や大寺社の補修などに、年間国家予算級の金を支払わせ、常に困窮状態にさせ、戦争をしたくてもできない状態にしたんですね。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
そんなのが積もり積もって200年、そりゃあ財政も破綻寸前となります。だがしかし、コレに関して薩摩はどぎつい活路を見出す。
金を借りた豪商たちを集め、宣誓する。
「金は必ず返す、ただし、年2万両ずつ。利息は払わん」— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
そう「250年かけて借金を返す」と言ったんです。
これが今から二百年弱前の話なので、実は薩摩藩、まだ借金の返済終わってないんですねw
完済予定が2035年くらいです。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
あまりに無茶苦茶なものいいでしたが、驚くことに、貸主たちは承諾します。まぁ半ばゴリ押しなとこもありますが、逆らえば殺されるか、もしくは召し上げや取り潰しを食らうかという恐怖もあったでしょう。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
とはいえこちら、完全に無茶でもないんです。
それもまず大前提として、薩摩・・・正確には、薩摩を治める、「島津」の信用度が高かったからです。
島津氏というのは、はるか昔から薩摩を治めています。
どれくらい昔かというと、徳川どころか室町以前、鎌倉幕府とほぼ同期。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
というか、島津市の開祖がいるのですが、その母親は「鎌倉殿」にも出てきた比企氏の女性。
佐藤二朗さんが演じていた、比企能員の義理の妹。
頼朝の乳母だった比企尼の娘です。
それが源頼朝に命じられて、薩摩の国主になったのですな。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
マンガ「ドリフターズ」の中で、主人公島津豊久の故国薩摩を、戦国武将の織田信長だけでなく、那須与一も知っていたのも当然で、「島津による薩摩統治」のほぼ同期だったからなんですな。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
要は、それだけ莫大な年月を治め続けていた者たちなのです。その間に、様々なことがありました。
他家ならとっくに滅んでいるような中、戦国期には上述の徳川だけでなく、豊臣とも敵対しながらも所領安堵を維持してきました。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
かつては名を馳せた山名や、武田が滅んだ中、なおもの頃続けた「島津」ならば、「二百五十年の返済」も決して夢物語ではない・・・「国家としての信頼の格付け」があったわけです。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
さらに言えば、商人たちにも「利」はありました。
当時の商人たちは保証がありません。
もしなにか社会的変動が起これば、一瞬で全財産を失うというケースも少なくはありませんでした。
だが、「借金」という形で、薩摩に預けたと考えれば?— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
そうです、この時点で600年続いた国家に、「預ける」コレ以上の安心はそうはありません。
幸い毎年2万両ずつですが戻ってきます。
要は、島津国立銀行の低利息国債を購入したようなものです。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
この長期返済型に切り替えたことで、藩士に給金も払うこともできなくなっていた薩摩藩は、一旦息を吹き返します。それから二十年も経たずして財政再建を果たし、なんと、国庫に250万両溜め込むまでに至りました。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
この250万両の資産を元に、技術開発や経済振興を行い、さらに国力を増強したことで、薩摩藩は倒幕を果たしたと言われています。
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ちなみに・・・「で、借金はどうなったの?」という話ですが、まぁ結論から言うと、踏み倒しました。
五十年くらいは返してたみたいですが、その頃に廃藩置県が行われ、「一定年数以前の藩政時代の借金は無効」となりました。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
この「一定年数以前」に、たまたま、なんと、偶然にも、薩摩の「500万両の借金」が入ってたんですね。
まぁ・・・新政府のトップは薩摩出身者が占めてますがw— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
そう考えると、「何だよ結局商人大損だったんじゃん」と思われるかもですが、さにあらずで、案外そうでもない。正確に言えば大損は大損だったんですが、被害額ならぬ被害価値は、さほどでもない・・・
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
というのも、江戸期、この借金を拵えた200年前から、倒幕維新がなっての間に、えげつないインフレが起こりまくってんです。諸説ありますが、幕末の段階で最小で3倍、最大では6倍です。
この段階で、借金の実質価値、100万両以下になっていたわけです。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
しかも、明治になって、「円」が導入された際、「一両は一円」になりました。
この「円」の価値も、明治の末期には半分以下になってます。物価がどんどん上がっていたので。
この段階で50万両です。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
さらに日本は日清日露に第一次世界大戦と経験していき、好景気やら不景気やらなんやかんやあり、大正末期、明治初期には一円の価値は現在の600円くらいになります。
一兆円だった500万両の借金は、この段階で30億にまでなりました。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
そして昭和恐慌を経て、日本はハイパーインフレーションが発動、なんと昭和の二十年で物価は300倍に上昇。さらに終戦後もインフレは年125%で続き、薩摩が借金をして120年目で、1円の価値は現在の10円にまでなります。
ですから5000万ですね。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
そしてさらに60年経っての現在・・・1円の価値は1円です。薩摩が借りた500万両の借金は、現在の価値電も500万円です。いくらかは返済しているので、残っているのは400万円くらいでしょう。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
仮にかつての大商人たちの末裔が返済を求めたとしても、一人あたりの返済額は100万もないでしょう。
ちなみに島津家は今も続く鹿児島の地元大手企業ですから、払えと言われればその場で払える額です。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
これが、借金のおもしろいところなんです。
個人間の貸し借りならば、寿命や加齢による収入の減少などもあるでしょう。しかし、百年単位で借金が可能な信用のある国家ならば、ひたすら「返さない」方が、実はどんどん得をするのです。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
もしも薩摩が「財政健全化だ」などと言い出し、税収の大半を返済に当てていたらどうでしょう? 藩の運営すら不可能になり、倒幕どころかその前に薩摩藩が潰れてました。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
「薩摩藩が潰れなければどれだけ時間はかかっても返ってくる」が成り立つならば、貸主側は「無理に返そうとして国が潰れて一銭も戻ってこないよりはマシ」となるので、無理して返さない方が、そっちも実は得なんです。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
「延々と莫大な借金を背負えというのか、将来世代にまで!!」と言うかもですが、親が家も土地も財産も残さず、自分にまともな教育も与えず、全部を借金返済に回してしまえばどうでしょう?
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
仮にまっとうな機会を得たならば、年収1000万になれた我が子に、育成の投資を渋り、小遣い銭すら与えず、大学どころか高校も通わせなければ? その半分の年収を得るようになることも、難しいでしょう。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
そうしている間に、ゆるやかに物価は上昇し、時になんらかの社会の変動・・・国内だけでなく国外を起因としたもので急上昇することは多い。百年単位での返済期間ならなおのことです。そのたびに、借金の価値は下がっていくわけです。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
「将来世代のツケ」ってのは、実は残したほうがいいんです。子や孫どころか、曾孫や玄孫やその先まで。
島津の500万両が500万円になったように。
未来においてはさほど大した負担額にはならないわけですから。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
仮に、二百年前のあなたの先祖が現れ、「金がなくて死にそうだ、このままでは皆で死なねばならんかもしれん」と言い出すとします。先祖が死ねば自分も生まれません。
「いくら足りないんだ? いくらあれば死なずに済む!?」と尋ね、
「せめて百円(両)あれば・・」
と言われれば?w— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
「やるよ」と言うでしょう?
だが、頑として受け取らなかったら?
「いや、子孫にツケは残せない。そんなことするくらいなら死んだほうがマシだ」と言い出せば?
「いいから受け取れ! このままじゃこっちが消える!」
もうすでに足元が消えかけてますよ、バック・トゥ・ザ・フューチャーみたいにw— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
「いやでもそううまくいくとは・・・」と思うかもですが、そう行くように方向性を定めることが、ほんとうの意味での「将来世代にツケを残さない」なんです。
今こうしている間も、いやすでに、この何十年ものあいだに、実は我々の子孫は次々と消滅しているのかも、しれませんね。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
ああそうそう、そういえば、日本は太平洋戦争や大東亜戦争だけでなく、その前の日露戦争でも国債刷りまくって軍費にあてていましたが、実はこっちは踏み倒してません。なにげにちゃんと返済してます。
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
ただ上記のように、戦前戦後でインフレ起こりまくったので、最小でも物価が80倍くらいになってた・・・つまり、価値が1/80になってたので、ほぼ紙切れ状態だったそうですなw
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
まぁそう考えるとものすごいもんで、惨憺たる有様でしたが、日本は先の大戦で、アメリカ、イギリス、中国、フランス、ソ連、あとオランダ? まぁ世界の大国と年単位でやりあったわけです。
それが「できちゃう」くらいの力はあるわけですね、国債って。— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
別に日本主催で第三次世界大戦起こそうってわけでなし、どっかの国に攻め込む予定も理由もないんだから、国防のための国債程度ならば、十分「あり」な選択だと思うんですよね。だめな理由って他になにがあるんだろ?
— SOW@新刊12月発売 (@sow_LIBRA11) December 14, 2022
借金返済方法
1835年に調所は大胆にも借金の無利子250年返済を宣言した。毎年2万両の返済では反発が必須でその対策として、幕府の口を封じるため10万両を上納し、有力商人には特産品や密貿易品を優先的に扱わせた。返済は2085年まで継続されるはずだったが、廃藩置県でチャラに
-計算コラムから— masayoshi (@mtsoukoku) December 15, 2022
金というのはどこまでいっても、どの時代でも信頼の上に成り立つもの、ですねぇ…。
— 同心円文◎?◎ (@enmon5621) December 14, 2022
この話を読んでなんか記憶を刺激されたので、積ん読本を探したら「薩摩燃ゆ(安倍龍太郞)」という歴史小説買ってました。借金500万両を抱える薩摩藩立て直しに奮闘した調所笑左衛門広郷の物語。
— 専務車掌 (@jnrkarechi) December 14, 2022
そして薩摩藩は当時世界最強の大英帝国からの侵略を単一都市国家として大英艦隊司令官を倒し、撤退させたと言う戦略的意味では勝利と言う偉業を成し遂げる。
但し、薩摩藩の被害規模から欧米列強の脅威を理解し日本国としての富国強兵無しには植民地化される事を実感、結果として倒幕に向かう
— Takuma Miyamoto (@TakumaMiyamoto1) December 14, 2022
薩摩藩の大久保利通はん。 pic.twitter.com/UHQqZauNOF
— プリズム太郎 (@prismtaro) December 15, 2022