横殴りに雪が叩きつけてくる吹雪の日には思い出す。
私がまだ「お嬢さん」と呼んで頂けていた年齢の、携帯電話が世の中にまだ無い頃。買い出しに行ったデパート前で待ち合わせているが、家族は来ない。
待てど暮らせど、来ない。吹雪の中震えながら立っている私に
デパート横の珈琲店のマスターが— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
「お嬢さん、もう長い時間待ってるみたいだけど大丈夫?良かったらお入り。寒いでしょ?」と声を掛けてくれた。
そりゃもう、寒くて。身体の芯まで凍えていたから
「注文しなくていいから、とにかく入って温まったら?」の有り難いお言葉を
拒むなんて出来なくて。お客さん居ないからそこ座って、
— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
と言われるままカウンター席に座り、暖かくて人心地がして、ほっとした。
「珈琲飲める?まだ飲んだこと無いか」
秘境育ちの私にとって珈琲とは
砂糖ミルクを入れたインスタントか、コーヒー牛乳のことだった。「本物は飲んだこと無いです」
「飲んでみる?」
「お金を持っていないので…」— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
「そんなのいいよ。こんなに寒くちゃお客さん来ないし。珈琲の淹れ方を教えるから、覚えて帰ってよ。
待ち合わせの人が来たらすぐ分かるように
ドアは開けておくから」マスターは私の目の前で
ドリップのやり方を見せてくれた。
まず蒸らすこと。
細かい泡が出るようにお湯を注ぐこと。— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
目の前で落ちていく珈琲の色の
なんと深いこと。
角度によって光り方が違い、こんなに綺麗なものなのかと感動した。「飲んでみて。人生初のドリップ珈琲。まずは砂糖もミルクも入れないで」
恐る恐る口にした、何も入っていない珈琲。
「…甘い!…えっ?美味しい!」
「美味しいでしょ。それが— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
本当の珈琲の味なんだよ」
それまで飲んでいたインスタントコーヒーは
どれだけ砂糖やミルクを入れても
苦い、としか感じなかったのに。何だこれ~!全く別の飲み物じゃないの!
凍えきっていた手も温かいカップで温まり
頂いた珈琲は美味しくて
夢のような時間だった。「美味しいんだよね、
— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
これ。ブルーマウンテンっていう種類」
当時のお金で1杯600円…ひえ~っ
「そんな高価なもの…!家族が来たらお支払いします」
「いいの。僕が淹れたかったんだから。お客さん来ないから暇でさ。それに、珈琲好きな人を増やすのが楽しいんだよ」こんな出会いをしたら
珈琲好きになりますとも!— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
渋滞に巻き込まれ予定より1時間以上遅れて到着した母は
「ぽんたは生真面目だから今頃
吹雪の中雪ダルマになっているんじゃないかと心配していた」と言い、
父は「どこかで何とか凌いでいるだろうと思っていた」と言った。凌いでました。素敵な出会いがあったよ。
遅れてきてくれてありがとう。— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
このあと進学の為に遠く離れた土地へ行った為に
なかなか伺えないで4年経ちました。自分の車を手に入れて
自力で伺った時には
再開発の為にお店は移転された後で。デパート跡と共にあたりが更地になっていたのを見た時は
悲しかったですね…再会出来ていないから
余計に忘れられません…— ぽんた (@Pontamama12345) January 6, 2021
いえいえ。30~40年前の昭和の話ですから
マスターも今は80~90歳くらいになってらっしゃるはず。私も親の介護をしていますので
その年齢の方々の健康状態は想像できますから
もうお会い出来るとは思っていません。思い出の中のダンディーなマスターのままで充分なんです。
— ぽんた (@Pontamama12345) January 7, 2021