昔、中国で遼寧省を旅した時に、市街地からタクシーに乗って、郊外の史跡を見に行こうとした。私は助手席に座って、地図で現在位置を見ながら、タクシーが正確に走っているのか確認するのが常だったが、運転手が「近道だ」と言いながら全然違うところを走っているのに気がついた。周囲は一面の麦畑だ。
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
東京に例えたら、大手町でタクシーに乗って、品川に行こうとしているのに、池袋を北上しているような感じだ。方向が全然違う。近道でもない。「止まれ!」と叫んだが、運転手はクルマを止めようともせず、逆にアクセルを踏み込んだ。飛び降りることもできないまま、麦畑に囲まれた一本道を走り続けた…
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
なんかヤバイ…というのはハッキリとわかった。もしかしたら、運転手が言うように、「近道」かも知れない…と思って地図を再確認したが、どう考えても全く違うところを走り続けている。池袋を更に北に進んだら品川に着くか?落ち着くために窓の外を見ると、風が吹いて、麦畑がザワワ…ザワワと波打った
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
たぶん、人が殺される時というのは、映画みたいに、何の盛り上がりも、目撃者もなく、BGMもなく、こんな麦畑しかないような静かな場所で、意味もなくアッサリと、虫けらのように殺されてしまうのだろうな…と思った。こんなところで私が死んでも、永遠に誰も気づかないような、麦畑しかない場所なのだ
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
私は間違っているかも知れないし、運転手が正しいのかも知れない。地図を読み間違えているのかも知れない。ただ、私が正しいのだとしたら、いまここで行動しない限り、大変なことになってしまう。判断できるのは自分しかいない。そして、運転手が私の言うことを聞かず、クルマを止めないのは事実なのだ
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
もう一度、麦畑を見て、深呼吸をしてから、振り向きざまに突如ハンドルをしっかり握って、「止めろ!」と大声で叫んだ。運転手はまたアクセルを踏み込む。「止めろ!止めろ!」と叫びながら、少しハンドルを揺らした。麦畑にクルマが突っ込む!運転手がパニックになって叫びだし、クルマを急停止させた
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
もし運転手が私を殺す気なら、なんらかの武器を持っているに違いない。彼が武器を取り出す前に、先にやっつけてしまうしかない。恐る恐る、距離を取りつつ、運転手の動きを注意しながら、自分の荷物を取って、そこまでの料金を支払って、タクシーを急いで降りた。運転手は不気味そうに笑って走り去った
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
周囲は一面の麦畑で、道には標識も何もない。重い荷物を担いで、さっきまでタクシーで走った道を逆に歩き続けた。ずっと麦畑を見ながら、私は馬鹿なことをやってしまったんじゃないかと後悔した。荷物の重さが後悔を更に大きくさせた。あの運転手は悪い人じゃなかったのかも?…私が間違ってたのでは…
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
1時間ほど歩いたら、小さな村に着いて、バス停があった。バスで市街地に戻れるらしい。ただ、次のバスが来るまで30分ほどあったかな…その時はまだ中国経験が浅くて、そんな麦畑の中の小さな村をじっくり見るのは初めてだった。バス停の近くに掲示板があって、何か色々貼ってある。それを見てみると…
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
死刑が執行された…という告知だった。3枚ほどあったかな…張なんとか、○○の罪によりいつどこで死刑…と書かれているのだが、その罪状の説明がやたらと詳しかった。要するに、これは見せしめだ。こういうことをやったら死刑になるんだぞ!と人民に示すことで、再発防止を喚起する「告知」なわけだ。
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
その「死刑告知」に、乗客を殺害し金品を奪うのを繰り返したタクシー運転手が死刑になった…と書かれているものがあった。それを読んだ時、それまでの緊張が解けて、全身の力が抜けて、「うゎぁ…」と情けない声をあげ、へたりこんでしまった。きっと私は正しかったのだ。正しくても全く嬉しくなかった
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
市街地に戻って、バス停の名前から知った地名で、もう一度地図上で位置を確認したけれど、あのタクシーは完全に違う場所へと走っていた。道を間違ったわけでもなく、どれだけ走っても、それは「近道」になってなかった。たぶん、人里離れたところへ連れて行かれてから、金品を奪うつもりだったのだろう
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
走行中のクルマのハンドルを助手席から握って、麦畑に突っ込もうとさせる…というのは、今から考えても、思い切った荒技で、映画なんかだとよくあるシーンだが、実際にやってみるととても怖かった。そして、とても勇気がいることだけど、それをやってる時に、自分が絶対に正しいとは確信できなかった。
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
運転手はずっと「これは近道なんだ!オマエが地図を読み間違えているんだ!」と言ってた。映画と違って、リアルの悪人はなかなか正体を明かしてくれないし、本音を語ってくれない。ただ、彼が本当に悪人だと確証を得るまで待っていたら、ここで皆さんに、このエピソードを伝える機会はなかっただろう。
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
この連投で私は「中国人はこんなにヒドイ!」と言いたいのではない。危険を察知して、何かを判断し、勇気を持って大変な行動をしなくちゃいけない時に、全ての証拠が出揃って、絶対に自分が正しいと確信できることは、まずありえない…ということだ。それでも果敢に「行動」しないといけない時がある。
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
運転手を信じず、ハンドルを奪って、走行中のクルマを麦畑にツッコませよう…というのは日常的には「正しくない」ことなんだけど、それが必要な時も、長い人生には一度ぐらいあったりするのだ。私に、そういう「人生で大切なこと」を学ばせてくれた中国に、イヤミ抜きで、心より感謝しているのである。
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
ご覧いただきありがとうございます。自分が正しいのかわからなくても、「決断」しなくちゃいけない時がある…ということですね。他人を信じたり、それまでに身に着けた「常識」や「良心」に従うのでもなく。「悪」に対抗して、己を護るには、非常識な判断と危険な行動が必要な時もあるのを知りました。
— 黒色中国 (@bci_) 2018年7月7日
海外ではタクシーの助手席に座るのがデフォルトだと思いますが、本当にヤバい空気の時には運転席の真後ろに座って「いつでもオマエの首を絞め殺せる」プレッシャーをかけます。
あとは、客待ちしているタクシーには乗らない(客を下ろした車がベスト)。
全てヤバい地域に住む地元民に教わりました。— MAMORU TANAKA (@naritakuukou14) 2018年7月8日