メイクで左右対称が不可能な理由

「右眉の方が眉山が低いんです」とか「左目だけ一重なんです」などと言った質問を受けることが多いです。

ですがそのときに「左右対称なんてしなくていいですよ。むしろしないでください」とお伝えしています。

それはどうしてだと思いますか?

「三次元において左右対称にするには、材料が足りないから」です。
つまり、本当に左右対称にしたいなら、粘土かパテが必要になってきます。

メイク道具という、表面に色を塗る道具だけでは、三次元上で左右対称にすることは、物理的に不可能なのです。
ではどうしてメイク業界は「左右対称」がいいと言ってきたのでしょうか?
それは二次元の写真撮影において正面顔だけなら左右対称にできるからです。
たとえば、左右対称な眉になりたいとして、右顔の方が奥行きが急だとします。その場合右眉の、眉尻を最後まで太めに描きます。
すると、正面から見たら左右対称に見えるように仕上がりました。
ではこれを左ナナメ45度から見てみるとどうなるか?変わらずキレイな眉に仕上がっています。それでは右ナナメ45度から見てみましょう。どうなるか?

使いかけのクーピーみたいになります。

つまりメイクで左右対称にすることが可能なのは、正面顔という1つのアングルだけなんです。

さらにもう1つ理由があります。僕たちは、

左右対称の人を美しいとは思っていないのです。

マリリンモンローを美しくないと思う人は少ないでしょう。

あらためてマリリン・モンローのお顔を見てみてください。
実は彼女は斜視なんです。他でもない顔の中で最も中心的な存在と言ってもいい目が左右非対称なんです。気づいていましたか?

そうなんです。僕たちは人の顔を見るときには基本的に左右対称かどうかは見ていません。ですからそもそも気付かないし、むしろ左右非対称な顔を美しいと感じたり、セクシーに感じているようなのです。

アメリカ人の写真家、アレックス・ジョン・ベック氏が手がけた「BOTH SIDES OF」というWEB上で公開している写真集があります。

それはどんなものかというと、自分が撮影したモデルさんや人々の顔の左半分だけを使い、右半分は完全なるシンメトリー(左右対称)にするためにコンピューターのグラフィック機能を使って作成。同じように、右半分の顔だけは本物を使い、それに合わせてシンメトリーな左部分をコンピューターで作成した、というものです。そして、人工的に作ったシンメトリーな顔と、オリジナルの顔を比べてみたところ、ほとんどの場合、オリジナルの顔のほうが美しかったのです。
彼は当初、シンメトリーの美しさを証明するために写真集を作ろうとしたのにもかかわらず、今まで知らなかった新たな事実「アシンメトリー(左右非対称)の美しさ」に気付かされることになります。

結果的に、当初の目的とは違う「人は完全ではないから美しいのだ」というメッセージが込められた写真集に仕上がったのです。

いかにメイクにおいて、左右対称を意識することが効果的でなかったかを感じていただけたのはないでしょうか?
左右対称に悩まされる必要はありません。
それぞれに最高の左顔、最高の右顔を目指しましょう。

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