麻疹がヤバい理由


◎そもそも麻疹ってヤベーの?

麻疹のヤバさを表すエピソードとして欠かせないのが、19世紀のフィジー諸島で起きた麻疹の大流行だね🐻‍❄️

1874年にフィジー諸島(オーストラリアの東側にある島国)がイギリスの植民地になった際、
フィジーの王様や王子たちがシドニーに公式訪問したんだ。

その帰りの船の中で、王子が麻疹を発症してしまった。シドニーに行った時に麻疹をうつされてしまったわけだね。

しかし、船に同乗してたイギリス植民地行政局の人は
「まあええやん、フィジーに戻るで🧔‍♂️」
と言ってそのまま上陸させてしまった。

そんな彼らをフィジー諸島各地の酋長たちが迎え入れて🪩パーリナイ🪩が繰り広げられ、
皆そろって感染してそれぞれの島に帰った。

フィジー諸島では過去に麻疹が持ち込まれたことが無かったから、誰一人として麻疹に対する免疫を持っていなかったんだ。

その結果、わずか3か月でフィジー島全域に麻疹が広がり、フィジーの人口の約1/3にあたる4万人以上が死亡してしまった。
当時のイギリス外交のえげつなさと、当時の知見的にもズサンすぎる行政局の対応から「わざとじゃね?」という噂もあるほどだ。(真相は闇の中だよ)

日本でも麻疹はたびたび流行っていた。
かかったことのある人(麻疹に免疫がある人)が減った頃にどこからともなく流行り始めてまた収束する、というのを20~40年ごとに繰り返していたとされるね🐻‍❄️

生類憐みの令で有名な徳川綱吉が麻疹で死亡したことでも有名だ。

まあそんな感じで、麻疹は歴史をガッツリ変えてきた感染症のひとつだね🐻‍❄️

◎何でそんなにヤベーの?

麻疹がヤバい理由、それは「強すぎる感染力」にある🐻‍❄️

例えばインフルエンザは、1人の患者から周囲の免疫を持たない1.3人に感染するとされる。
ざっくり言って、1.3倍ずつ感染者が増えるイメージだね。

それに対して麻疹は1人の患者から10人以上に感染してしまう力を持っている。
10倍ずつ感染者が増えたらそりゃ島中にあっという間に感染が広がるよね。ドラえもんのバイバインだよね🥮

さらにまずいのが、麻疹は「空気感染」を起こすウイルスだということだ。

インフルエンザなど、いわゆる「風邪」を起こす病原体の多くは「飛沫感染」と呼ばれる経路で感染する。
感染した人の咳やくしゃみを吸い込んで感染してしまうタイプだね🐻‍❄️

これに対して「空気感染」は、空気中をウイルスや菌がふよふよ漂うという性質を持っている。

その防ぎにくさは飛沫感染と段違いだ。
だからこそ10倍ゲームで広がってしまうという側面もあるわけだね🐻‍❄️

今回のような麻疹の感染報告があると、感染者がどこの飛行機や新幹線を使ったか、
どこのお店でご飯を食べたか、といった情報が詳細に公開される。
これだけでも、麻疹がいかにヤバい病気かが伺い知れると思う。

麻疹の厄介な点はまだまだある。
麻疹には有効な治療薬が存在しないんだ。

例えばインフルエンザは抗ウイルス薬が使えるし、溶連菌なら抗菌薬が役に立つんだけど、麻疹にそういった治療薬は存在しない。
WHOは重症化防止としてビタミンA投与を推奨しているが、根本的な解決策にはならない。

そして、感染した時の重症化率も高い🐻‍❄️

フィジー諸島の事件の時より医療技術が向上しているからその時ほどひどい状況にはなりにくいけど、
それでも健常者が感染すると1000人に1~2人ほどが死亡し、1000人に1人ほどが脳炎を起こす。
人工呼吸器が必要になるくらいの肺炎を起こすリスクも高い。

脳炎を起こすと20~40%くらいの割合で麻痺やけいれんなどの後遺症が残ってしまうし、
「SSPE」といって数年後に発症して死亡するタイプの脳炎もある。

このへんの区分は詳しく説明するとややこしいけど、
とにかく「麻疹はいろいろヤベエ」とだけ覚えてくれれば十分だ🐻‍❄️

妊婦さんに関してもかなり危険で、
妊娠中の麻疹感染で流産・早産・死産を起こす確率が跳ね上がることでも知られている。

◎じゃあどうすればええねん?

答えは単純だ。
「感染する前にワクチンを打つ」これだけだ🐻‍❄️
というか、これ以外に手段はない。あとは無人島で暮らすとかかな。

麻疹や風疹は、生涯に2回ワクチンを接種できていればほぼ感染することはないとされる。

2024年現在では「1歳」と「5~6歳」の2回のタイミングで麻疹のワクチンが打てるようになっている。
そのため、小学校に上がる前には麻疹に対する免疫がついているはずだ。

しかし、全員が等しくワクチンを打てているわけではない。
反ワクチンは論外としても、何かの都合で接種に行けなかったという状況も存在するだろう。

それに、麻疹のワクチンを打てているかどうかは生まれた年によってかなり違う。
具体的に言うと、以下の3通りに分けられるよ🐻‍❄️

①1977年度以前生まれ
麻疹ワクチン接種が定期接種になる前の時代だ。
ただ、この時代は自然に麻疹にかかる機会が多かったので、自然に免疫を獲得している可能性もあるね。

②1978年度~2005年度生まれ
1回だけの定期接種だった時代だ。
そのため、人によっては免疫が十分についていない可能性があるね。

ただし②の中には例外があって、2007年に麻疹が大流行したことをきっかけに1990~1999年度生まれの人は追加接種の機会が設けられている。
ここに該当する人はもしかすると2回目を受けているかもしれないね🐻‍❄️

③2006年度以降生まれ
今の体制(1歳と5~6歳で接種)が整った時代だ。
2回接種を受けている可能性は高いね。

そのため、まず皆が確認すべきは『母子手帳』だ。
母子手帳にはワクチン接種歴が記載されている。ここで麻疹や風疹のワクチンを2回接種できていればセーフ、ほぼ安心と言っていいだろう🐻‍❄️

確実な2回接種の記録がない場合は、ワクチンの接種を検討しよう。
(特に妊娠を希望されている方とそのご家族は絶対だぞ。シロクマとの約束だ🐻‍❄️)

麻疹や風疹のワクチン接種に助成金が出る自治体もあるから、
「(お住まいの自治体) 麻疹ワクチン」とか
「(お住まいの自治体) 風疹ワクチン」
で検索してみるのも良いね。

ちなみにインフルエンザやコロナと違い、麻疹や風疹のワクチンは妊娠中には打てないから注意しようね。

麻疹はノーガードだと人口の1/3が亡くなったことがあるとんでもない感染症だけど、
人類の叡智によって防げるようになったんだから、しっかり自衛していきたいよね🐻‍❄️

参考文献
寺田喜平『麻疹』小児内科 52(増刊): 962-967, 2020.
厚生労働省『麻しんについて』
同友会グループ『大人の麻疹(はしか)―あなたは抗体を持っていますか?』