息子が小さかった頃、「は」に点々をつけると「ば」になるということが、何度教えても理解できなかった。「か→が」や「た→だ」の対応関係はきちんと理解しているのに、なぜか「は→ば」だけが理解できない。「『は』に点々をつけると何になるかな?」「う?ん、わかんない」の繰り返しだった。
— Ippei Oshida (@ippei_oshida) January 1, 2022
数年後、たまたま読んでいた言語学の本に、この謎の答えがすべて書いてあった。結論から言うと、間違っているのは大人の方だったのだ。
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これはぜひ自分で順番に発音しながら口の中の動きを確かめてもらいたいんだけど、「か→が」「さ→ざ」「た→だ」と発音する時に口の中で起こっている動きと、「は→ば」と発音する時に口の中で起こっている動きが、まったく異なることがわかると思う。
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音声学的には、点々をつけることは「濁音化」と呼ばれており、「無声音(喉の奥を震わせずにする発音)」を「有声音(喉の奥を震わせながらする発音)」に切り替えることを言うらしい。つまり、「か→が」「さ→ざ」「た→だ」はそれぞれ「無声音→有声音」という同じ対応関係が成立している。
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しかし、「は→ば」だけは、「無声音→有声音」という対応関係が成立しない。ここはまた発音しながら確かめて欲しいんだけど、「は→ば」の切り替えは、喉の奥の震えの有無ではなく、唇の動かし方の変化によって行われている。つまり音声学的には、「は→ば」の発音だけまったくルールが異なるのだ!
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よって、音声学的な観点で言えば、「『は』に点々をつけると何になるかな?」という質問の答えは、「わからない(そんな音は存在しない)」が正解になる。つまり息子の答えは正しかったのだ。
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息子はきっと「か→が」や「さ→ざ」の時に使った「無声音→有声音」の切り替えの法則をきちんと理解しており、その法則を「は」にも当てはめた。しかし、「は」を濁音化することができなかったため、「わからない」と答える、という推論の仕方をしたのだろう。そう考えると完璧に合理的な回答である。
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我々大人は、子供の合理的思考能力をあまりに甘く見すぎているのかもしれない。彼らは彼らの意味の世界で、彼らなりの合理性を駆使して生きている。「子供だから間違えたのだろう」と大人はすぐに判断してしまうが、今回のケースのように、大人の世界の矛盾に子供だけが気づいていることも多い。
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大人達は「は→ば」という日本語のルールを前提として生きているため、そこに発音的な差異があるなんてことにもう気づくことができない。知識を習得するということを、我々はなんとなく知が増えることだと信じているが、一つのルールに順応することは、同時に何か別の知を失うことなのかもしれない。
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ちなみに「ば」と対応関係にあるのは「ぱ」らしいです。つまり音声学的には「ぱ→ば」が正しい対応関係になるということ。こんなのたぶんほとんどの大人が知らないし、気づけないですよね。
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今回の話はこちらの本から学ばせて頂きました。他にも、「かににさされてちががでた」や「これ食べたら死む?」といった子供によくある言い間違いが分析の対象になっています。むちゃくちゃ面白いのでぜひ読んでみてください。https://t.co/ZnVxVYYUZZ
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高専で教わったのかはっきり覚えていないけど、50音の行には意味があってランダムに並んでる訳ではないと聞いてはっとしたの覚えてる
は行は濁点付いても半濁点付いても破裂音になる特別な音って認識— zkaz7 (@zkaz7) January 2, 2022