ところが実際のデータには大きな違いがあり、多くの人にアンケートをおこなうと、大半は
「私は平均より運転がうまい」や
「私は平均よりも頭がいい」と答えますし、
暴力事件を起こした犯罪者に聞くと、ほとんどが
「自分は他人よりも親切で信頼がおける人間だ」
と答えました。
受け入れがたい話かもしれませんが、私たちが自分のことを正確に判断できないのは間違いありません。
そこで、クリティカル・シンキングの出番です。
「私のことは私が一番よくわかっている」という思い込みから抜け出して、自分がどんな人間なのかを見極めるためには、クリティカル・シンキングで脳を「深いモード」に切り替えるしかありません。
たとえば、クリテイカル・シンキングでよく使われるツールに、「What法」というものがあります。
「なぜ?」ではなく「なに?」で自問を重ねていくテクニックで、思い込みを取り 除いて自己理解を深めるのに役立つツールです。
一例として、あなたが
「いまの仕事が嫌でしょうがない」
といった問題に悩んでいるとしましょう。
そんなときに「なぜ?」で答えを考えていくと、自己の理解は進みづらくなります。
「私は“なぜ”この仕事が嫌いなのか?」
→「いまの上司が嫌いだからだ」
→「なぜ?」
→「上司が、人間的に問題があるからだ」
→「なぜ?」
→「よくわからないが、生い立ちに問題があるのかもしれない」
もちろん、必ずしもこの事例のように思考が進むとは限りませんが、「なぜ?」を使うことでどんどん発想がネガティブになり、生産的な考え方ができなくなってしまう状況は、誰にでも心当たりがあるのではないでしょうか。
「なぜ?」という自問には、ネガティブな感情をか きたててしまう働きがあるのです。
それでは、今度は「なに?」で自問してみましょう。
「私はこの仕事の“なに”が嫌いなのか?」
→「上司との人間関係が悪いところだ」
→「人間関係の悪さをもたらす原因は“なに”か?」
→「上司の口調がいつも厳しく、私が冷静さを失ってしまうからだ」
→「上司の口調を正す方法は“なに”か?または私が冷静さを保てる方法は“なに”か?」
「なぜ?」を使ったときよりも、思考が前向きな方向に向かいました。
いつもこのようにうまくいくとは言えないものの、「なぜ?」を使うよりは、格段に前向きな思考が生まれやすくなるはずです。
「What法」をさらに進めると、今度は自己分析が深まるようになります。
「私が冷静さを保てる方法は“なに”か?」
→「冷静になる方法を探すには、自分が上司のどんな発言に反応しているかをはっきりさせる必要がありそうだ」
「私が冷静さをもっとも失いやすい発言は“なに”か?」
→「よく考えてみると、自分の作業の遅さを指摘されたときに、我を忘れやすい傾向があるようだ」
「『作業の遅さの指摘』で私が冷静さを失ってしまう事実の裏には“なに”があるのか?」
→「私は自分の作業スピードに大きなプライドを持っているため、その点を否定されるのが嫌 なのだろう」
ネガティブな思考にハマらず冷静に思考が進み、最終的には
「自分はどのような人間か?」
の輪郭が見えてきました。
「なに?」という質問のおかげで好奇心が生まれ、被害者意識にとらわれずに問題を考えることができたからです。
同じように、人生の問題はすべて自己分析の素材として使えます。
・「なぜパートナーとうまくいかないのか?」ではなく
「なにがパートナーとの不和につながったのか?」と自問する
・「なぜお金がないのか?」 ではなく
「なにが預金残高の不足につながったのか?」と自問する
・「体調が悪いのはなぜか?」ではなく
「なにが体調不良を引き起こしたのか」と自問する
日常の問題に「What法」を使うと、よりよい解決策が浮かぶだけでなく、自分のことをもっと深く理解できるようになります。
「日々のトラブルは自己を知るチャンス」と考えて、クリティカル・シンキングを使ってみてください。
※本記事は出版社の許可を得て紹介しています