一人でカラオケやってる女の子をナンパする男

一人でカラオケやってる女の子をナンパしてみた

ヒトカラが大流行らしい。揚げ物じゃない。「ひとりカラオケ」のことである。平日の昼間や会社帰りにふらっとカラオケ店に入り、1人熱唱する連中が激増中なのだ。全国的な規模で。 

むろん、そんなネクラなムーブメントを裏モノが取り上げるからには相応の理由がある。そう、実はヒトカラ人口の多くが若い娘さんたちで占められているのだ。これ、考えてみればすごい状況といえないか。

女がたった1人で、

あらかじめ個室に待機し、

ヒマを潰している。

路上ナンパでいえば、いきなり5段階中の3あたりからスタートできるも同然の状態だ。いいのか?
こんなけしからん現象がブームになって。遠慮なく、突入しちゃいますよ!夕方。新宿の「カラオケ館(カラカン)」へ足を運んだ。 まずは様子見と、店の入口から少し離れたところで客の出入りを観察。すると、3分と経たずに1人のギャルっぽい女が何食わぬ顔で入店していく。
しばらくして、今度はギターケースを背負った20代前半の女が、さらにその直後にラフな出で立ちの金髪ネーチャンが、吸い込まれるようにカラオケ店へ。スゴイ、たった10分ほどで、ヒトカラ女が3人も。ウワサ以上の流行ぶりではないか(ちなみに男のヒトカラも数名いた)。よし、彼女らの部屋へ乱入してやる!
フロントで地下の部屋を割り振られたオレは館内の巡回を始めた。一室ずつドアの窓から中を覗き、1人で歌ってる女を見つけたら片っ端から突入しようとの腹だ。が、地下フロアには、カップル2組、グループ1組、ヒトカラ男が2人いただけで単独女はゼロ。ならば、お次は1階だ。よっこらせと階段を上って、まずは端っこの部屋から…。「お客様、どちらへ?」背後から声がかかった。男性スタッフがジッとこちらを見ている。「あ、ちょっとトイレに」
「申し訳ございませんが、このフロアには女性おひとりのお客様もおりますので、ちょっと…」
どうやらこのカラカン、女性のヒトカラ客はフロントのある1階に振り分けて、ナンパを防いでいるらしい。 受付票に「男空白/女1」の記入があれば
5分ほど外を歩き、1階がフロントだけのカラカンを発見した。ここなら店員の目を気にせず動き回れる。よしよし。いま現在ヒトカラ娘がいるかどうかわからんが、とりあえずフロントへ。

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「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」「1人です」「では、こちらをお書きになってください」
毎度毎度のめんどくさい受け付け手続きだ。はい、男1、年齢は33と。バリバリと閃光が走った。これだ。ここに「男空白/女1」の記入があれば、そいつはヒトカラ女じゃないか。しかもちゃんと店員の手で部屋番号も書いてあるし。女のひとり客は……いたいたいました!
サワダさん24才、部屋番号は「711」。あともう一人はオカダさん20才、部屋番号は「512」。ごっつぁんです!
まずは7階のサワダさんの部屋へ。ドア付近までやってくると、室内から女性の甲高い声が漏れ聞こえた。AKBのヘビーローテーションか。ガラス越しに覗いた先には、フリフリの洋服を着た女が、振りつけ付きで熱唱している。一人っきりで何が楽しいんじゃろか。ふうっと深呼吸をしてドアの前に立つ。さあ開けるぞ、開けるぞ。直後、ガラスの向こうの彼女がおれに気づき、口をパクパクさせた。何を言ってるのかわからないが、眉間に思いっきりシワを寄せているあたり、歓迎してくれているわけではなさそうだ。ちょっと手でも振ってみるか。 ハロー。彼女がつかつかとドアの方へ歩み寄ってきた。お、中に入れてくれんのか?30センチほど開いたドアのすき間からぬっと顔が出てきた。「ちょっと、何?何の用?」トゲありまくりな声を聞いた瞬間、ナイな、と確信した。
「いやー、歌があんまり上手だから聞き惚れてしまって」「はあ?」「あの、よければじっくり聴かせてもらえませんか?中に入ってもいいですか」「ふざけんなっての! あっち行ってよ、ジャマジャマ!」続いて5階へ。先ほど同様、おもむろにドアの前に立ってみたところ、ソファの背もたれの上に座っていた女とバッチリ目が合った。思わずお辞儀するおれに釣られたように彼女が微笑む。オカダさん、脈アリ?ゆっくりとドアを開けた。
「すいませーん、あのお願いがあるんですけど。一緒にカラオケしてもらえませんか?」「デュエットってことですか?」
え、デュエット?そう来ます?はい、それでもいいです。
「はい、デュエットしましょう。入っていい?」「いや、それはちょっと」「え、なんで?」「知らない人なんで」
期待したのに。三年目の浮気、歌うつもりになってたのに。 どうせならカラカン以外のチェーン店も探索してみようと、「ビッグエコー」と「カラオケの鉄人」に足を運んだ。 しかし結論からいうと、この両店、ヒトカラ女の漁場には向かないようだ。まずビッグエコーは、カラカンと異なり、客がそれぞれ受付票を書いて店に提出する形式をとっており、これではヒトカラ女の有無がわからない。カラオケの鉄人はカラカンと同じ形式の受付票だったが、文字があまりにも細かくて見づらいのが難点だ。というわけで本日3店目のカラカンへ。受付票を確認してみると、3人のヒトカラ女がいた。そそくさと1人目の部屋に急行する。ん?真っ暗で人の気配がないぞ。部屋番号まちがった?

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おもむろにドアを開くと、ソファの上で女のコが横になっていた。爆睡中らしい。なんて不用心な。
「あのう、お休みのところすいませーん」彼女はむくりと身体を起こした。「何してるんですか?」
「え、疲れたからちょっと寝てたんですけど。てか誰?」「通りすがりの者です。一緒にカラオケしませんか?」彼女はちょっと考える仕草をしてから口を開いた。
「疲れてるんで、ひとりにしといてください」「カバンとか盗られちゃうから危ないよ。おれ一緒にいたげる」「あ、結構です」「遠慮しないでよ」「結構です」
押せばなんとかなると粘ったが、彼女は「結構です」の一点張り。通りかかった男性店員に不審な目を向けられたところですごすご退却した。気を取り直して、次のターゲットへ。ドアの外から室内を覗くと、今日見たなかで一番の美人さんがマイクを握りしめ、嵐の曲をシャウトしていた。目があったのでひらひらと手を振ってみる。彼女は不思議そうにこちらを見つめたまま、軽く会釈した。では参ろう。

「歌、お上手ですね」
「え?ありがとうございます」
「よければ部屋の中で聴かせてもらえませんか?おれ、嵐スキなんですよ」
ぷっと彼女が吹き出した。
「関ジャニの曲ですよこれ」
わっ、カッコ悪。けど、このムードは悪くない。再プッシュだ。
「一緒に歌ってもいい?おれも1人で歌ってたんだけど、つまんなくって」「え、でも…」
悩むか。そりゃ悩むわな。見ず知らずの男だもんな。個室だもんな。
「この部屋の精算はどうなるんですか?」
そんなこと心配してたのかよ!おれがおごるに決まってんじゃないの。「え、いいんですか?じゃあ、どうぞどうぞ」
あっさり部屋に招かれてしまった。自分で頼んでおいて言うのも何だが、あなた、そんなガードゆるゆるでいいのか。

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おれは彼女から1メートルほど離れてソファに腰かけた。ピタリと横付けしなかったのは、遠慮したというより気が引けたからだ。ナンパが目的なのに。
「今までカラオケ中に知らない人が入ってきたことある?」
「初めてですよ。でも、私もちょっと飽きてきてたんで、ま、いいかなって」
うんうん、やっぱ1人でカラオケなんてつまんないよねぇ。あ、おれ菅原と言います」「えっと、サトコです」
彼女、受付票には25才と書いていたが、気恥ずかしそうに肩をすくめる姿はもう少し幼くみえる。
「今日は仕事休み?普段は何してるの?」「ふつーの事務職です。今日は買い物したあとでふらっとカラオケに寄って。ヒマだったから」
「1人でよく来るの?」「月に数回程度かな。あ、どうぞ歌ってください」
このフレンドリーさはどういうことだろう。いきなり乱入してきた男を怪しむことなく、フツーにしゃべってるし。また個室に向かうことの難易度は0だ。
「歌わないんですか?」
気をつかってるのかサトコちゃんは何度もおれにマイクを勧めてくる。カラオケなどむしろ止めて、おしゃべりで距離を詰めたいのに。が、
「一緒に歌おう」を口実に乱入した以上、避けては通れない。しかたなく井上陽水の『なぜか上海』を選曲し、途中、ちらっと見ると、彼女は食い入るようにモニターを眺めていた。こんなマイナーな曲、多分知らないだろうに。
「いい曲〜。しかも上手い」「ありがとう。サトコちゃんも唄ってよ」「うん」
今度はこっちが盛り上げないとな。楽しそうに歌う彼女に、おれは大声ではやしたてた。「いいよいいよ〜。最高〜」
「ははは、何か恥ずかしい」そんな感じで双方3曲ずつ歌ったところで、ふいにサトコちゃんが口を開いた。「そろそろ退室時間だけど」
「この後予定ないなら外でメシでもどう?」
「だったら飲みに行きません? 私、レモンサワー飲みたい」

こんなステキな展開があっていいのだろうか。彼女自ら飲みに誘ってくれるとは。このままふわ〜っとした流れでホテルまで行けるんじゃね?近くの居酒屋で、しばし互いのプライベートな話題に耳を傾けつつ、おれはちょこちょこモーションをかけた。
「思い切って声をかけてよかったよ。でなかったら、こんなカワイイ子と酒なんて飲めなかったし」
「またまた〜。でも道で声かけられてたら普通にムシしてたかも」
そうなのだ。あの状況は、話しかければ強制的に会話が成立してしまうという利点もあるのだ。
「サトコちゃん、モテるでしょ」
「2年ほど彼氏いないんですよ」
「そうなの?立候補しちゃおっかな」
「ははは」
軽く流されてしまったが、おれもいきなりホームランを期待するほどバカではない。とりあえずここは酔わすことに専念し、あとでもう一度カラオケに誘うつもりだ。個室で出会った二人なのだから、また個室に向かうことの難易度は0だ。そこでチューのひとつでも決められればマ○コは目前である。ところが、すっかり酔ったのを見計らって居酒屋を出たとたん、彼女は言うのである。「もう帰らなきゃ」「え、うそ?」
翌朝までに、仕事の書類を作成しなきゃならないのだとかなんとか、とにかく申し訳なさそうだ。
「今度、いつ会えるかな?」「週末なら大丈夫だよ」
そのことばを信じ、当日も、翌日も、その翌日もメールしてみたが返事はまだ来ていない。やはり、鉄は熱いうちにうっておかんとダメなようです。
おれが甲斐性無しなばっかりにしょーもない結果に終わってしまったが、ヒトカラ女狙いは悪くない作戦のはずだ。店員に注意されぬよう、健闘していただきたい。