人が喜んでいる時より、悲しんでいる時に駆けつけることができる人であれ
30代になると、結婚式や葬式など人生の節目に立ち会う機会が増えるだろう。
そして、冠婚葬祭での立ち振る舞いこそ、あなたのあり方を問われる場だ。
となると、30代のうちに冠婚葬祭の基本的なマナーは必ず頭に入れておく必要がある。
その際、あなたに何より大切にしてほしいもの、それは結婚式ではなく、通夜や葬式だ。
これには可能な限り、足を運ぶことだ。
どうしても行けない場合は花を出すだけでもいい。
とにかくスルーをしないことだ。
こういう考えに至ったのも、私の大先輩が、30代はじめのころの私に教えてくれたエピソードがもとになっている。
私の地元、大分県中津市に住む、私にたくさんのチャンスをくれた大恩人の社長と、こんなやり取りをしたことがある。
ある日、その社長が若いころにとてもお世話になった知り合いが亡くなったと連絡を受けたそうだ。
社長は、その日の予定をすべてキャンセルし、急いで大分の中津から福岡空港まで2時間かけて行き、そのまま北海道行きの飛行機に乗った。
飛行機は約2時間半。
新千歳空港から約40分かけて札幌に到着。
そこからタクシーで30分。
飛行機に乗るまでの搭乗時間も含め、ざっと計算すると約7時間。
葬儀場に到着したのは、お通夜が始まる前の時間だった。
どうしても葬儀も出たかったのだが、次の日の朝から、業者さんも呼んでおこなう経営ミーティングを前々から決めていたということで、香典を置き、亡くなった恩人の顔だけ見て、そのままとんぼ返り。
遺族の方たちも、感動を通り越して、その行動力にポカンとしていたらしい。
香典を渡すためだけに、往復14時間。
その話を聞いて、思わず私はこう聞いてしまった。
「遠いし、香典を送るだけでもよかったんじゃないですか?」
すると、
「いいか、茂久。葬式こそ可能な限り足を運べよ。これが結婚式だったら行かなかったと思う。あとからいくらでも『おめでとう』と伝えることができるからな。けど、葬式はその日しか故人に挨拶をすることができない。だからこそ、足を運ぶということに意味があるんだよ。まあ、その恩人の顔も最後に見たかったしな」
と、話してくれた。
たしかに結婚式の日程は前もって知ることができるが、葬式のスケジュールを事前に知ることはできない。
であればなおさら、故人に挨拶ができるのもその日以外にない。
親族やよほど大切な人以外、葬式に足を運ばないという人も多い。
しかし、30代ともなれば、自分の仕事の穴埋めをしてくれる部下の1人や2人、必ずいるはずだろう。
であれば、計報がきたら、できる限りすぐに駆けつけるべきであり、それが何より遺族にとって励みになることを忘れてはいけない。
私が、きずな出版から本を出し続けさせてもらっている理由
母を亡くしたときに、社長が言っていたことの意味とありがたさをしみじみと感じた。
いま私は著述業の10年のなかで、きずな出版からもっとも多く本を出させてもらっているし、これからもそうしていきたいと思っている。
それは、母の通夜に、きずな出版の櫻井秀勲社長と岡村季子専務が駆けつけてくれた恩と嬉しさを、義理やお世辞を抜きにして、いまでも忘れることができないからだ。
いろんなところから本を出させてはいただいていたが、そこまでしてくださったのは、きずな出版ただ1社だけ。
私の一番つらいときに、わざわざ東京から九州まで足を運んでくれた、「きずな」の文字通り、仕事以上の関係で繋がっている私の大切な人たちなのだ。
葬式というと、故人との縁の区切り目と思ってしまいがちだが、故人との関係性が消滅するというわけではなく、むしろ亡くなったことでより深いつながりを得るための儀式が葬式の本当の意味だ。
そして、故人と近い人たちから感謝されるということは、故人とのつながりをより強くするということなのだ。
人は結婚式に来てくれた人よりも、葬式に来てくれた人を忘れることはできない。
正直、私自身も結婚式に誰が来てくれたかはあまり覚えてはいないが、母の通夜と葬儀、あのつらいときに来てくれた人のことは決して忘れない。
故人の親族やまわりの人たちにしても、あなたが葬式に来てくれたことはしっかりと胸に刻まれ、そして心から喜んでくれるだろう。
人生の幕を下ろす瞬間に立ち会うことの大切さは、葬式でしか学ぶことができない。
であれば、計報がきたら可能な限り、すぐに駆けつけよう。
そういった心遣いと行動力を、30代でしっかりと身につけるべきだ。