死の床にあるあなたの5歳の娘が「死んだら天国に行くの?」と聞いてきたらどのように答えますか?

この架空の意味をなさない質問に対して、現実をお答えします。1990年代、私はプロのピエロとして活動していました。誕生日パーティー、結婚式、学校やお店の催し物、年末年始のパーティー、会社の行事などあらゆるイベントをこなしました。ピエロの「バイオレット・P・ラベンダー」は引っ張りだこの人気者でした。普通の家族がお得意様になることもあり、同じ子供の誕生日を3~4年に渡ってお祝いする栄誉に浴したこともあります。

そのお得意様の家族にかわいい少女がいました(ここではエミリーと呼びましょう)。初めて会ったのは彼女のいとこの誕生日でした。次に会ったのは彼女の4歳の誕生日。5歳の誕生日にも喜んで参加しました。その地域でバイオレットはとても人気者だったので、エミリーは自分の誕生日以外にも年に4~5回はバイオレットを見ていました。そうなると、この家族のイベントは私のプロフェッショナリズムが試される場でもありました。全ての子供たちがしょっちゅう私をみているわけですから、出しものの内容も練り直さなければなりません。

ある日、エミリーに会いに来てほしいと依頼を受けました。訪問先は小児病棟、彼女の6歳の誕生日まではまだ1カ月ありました。ショーの合間に時間があると病院にはよく訪問していましたが、特定の子供に相手に行くのは初めてでした。

バイオレットが病院に着くと、エミリーは個室に移されていました。事前に関係者とホールでおちあい、彼女の病状が芳しくないことを告げられました。エミリーはやがて自分が死ぬことをまだ知らないとのことでした。

バイオレット・P・ラベンダーが通されたのは、消毒薬のにおいがする、機械で満たされた真っ白な部屋でした。全身完全紫のピエロは風船と魔法、限りなくあふれる楽しさとともに現れました。エミリーは満面の笑みで手をたたき、残された貴重な体力を使って笑ってくれました。入室を許可されていたのは一度に二人だけだったので、部屋に居るのは私とエミリー、そして彼女の母親だけで、他の全員はガラスの向こうから様子を眺めていました。

私が滞在したのは20分ほどでした。私がさよならを言うと彼女は私の手を握り、最も難しい質問をしてきました。「バイオレット、私たちまた会えるの?」

同じ立場に置かれたら誰でもそうするように、私はうそをつきました。にっこりとほほ笑み「もちろん!エミリーの6歳の誕生日に会えるよ!」このかわいらしい子供は悲しげに頭をふりながら「ごめんなさい、バイオレット。もう誕生日パーティーは開けないの。だから、天国でバイオレットに会えるの?」と穏やかな声で言いました。

彼女が何も知らないなんて!母親は部屋から飛び出し、私は一人でこの恐ろしい真実と向き合わなければなりませんでした。

さあ、ピエロ・スーツに身を包んだ無神論者は、死の床にある、天国について話をしたがっている子供に何が言えるでしょうか?

「天国はどんなところだと思う?」と私は聞いてみました。彼女は天国についてあまり知らないようでしたが、「空の上」の大きな家で誰も話す相手もおらず、一人きりになってしまうことを心配していました。

なぜ彼女はこのように思ったのでしょうか?どうやら、どこかの善意に溢れたお人好しが良かれと思って、神様は彼女のためだけに天国に御殿を準備してあって、すぐにそこに行けるよとご丁寧に教えてあげたようです。御殿は彼女には「大きな家」と説明されていました……しかも彼女一人だけのための!彼女はそのイメージを怖がっていて、そこに行くのをいやがっていました。しかし「二人とも私が死んでしまうことを知らないから」(彼女はこれを小声でささやきました)、両親には相談できずにいたのです。

私は笑って、もちろん一人になんかならないと教えてあげました。彼女の家の周りにも沢山の子供たちが住んでいて、隣の通りにはピエロが住む街もある。そこを過ぎると大きな公園があって、子犬や子猫が遊んでいる(彼女はこれを気に入ってくれました)。

「バイオレットもそこに居るの?」ぶれない子です!答えることなしには離してくれないようです!バイオレットが天国に行くまでにはまだ長い時間がかかること、でも友達がそこにいるので、私を知っていると言えばいい。天国にあるエミリーの家には生きている友達や家族が映る魔法のテレビがあって、私たちがそこに行くまでそれを見ることができる。私も、ママもパパも誰でも会いたい人をテレビで見ることができる!

彼女は安心したようでした。もう怖くない、とも言いました。そして再び、何か言うと両親が心配するので、彼女の病状については黙っているよう釘を刺されました。両親が彼女のことで悲しむのをエミリーは心底心配していました。

部屋を出てナース・ステーションにたどり着くまで、私はなんとか涙をこらえました。

エミリーの次の「パーティー」にバイオレットは登場しました……彼女の両親の許可をもらい、バイオレットは色とりどりの風船を抱えて、さよならを言いに彼女のお葬式に出席しました。

それでは実際の人生においてあなたの馬鹿げた架空の質問に対して答えるならば、その子供に何でもいいから、不安を取り除いて、安らぎを得られるような言葉をかけてあげてください。

空の上で立派な御殿を建てて待っている見えない誰かに、あなたがどのような個人的な考えを持っていてもかまいません。しかし、他のあらゆる答えは間違いです。

死に瀕している子供の心の安寧より大事な宗教的信念や哲学的議論は存在しません。