見よう見まねで始めた「化粧まわし」作りは一つ一つの仕事から学んだことが財産

「前作よりも良いものを」

土俵入りで力士の晴れ姿をひきたてる「化粧まわし」。今回の匠は、田中幾重さん。化粧まわしを華やかに彩る日本刺繍の匠です。50歳までは海上自衛隊員だった田中さん。刺繍はもともとは奥様の趣味でした。「俺がやった方が上手いんじゃないかな、みたいな感じになって…」開いた展示会に、化粧まわしの織元が見にきた時に、その技術の高さを見て、仕事を勧められたのがきっかけとなりました。

田中さんは自力で化粧まわしの刺繍法を探りました。ダイナミックな立体感を生むのは、「切りばめ」という技法。別の生地に刺繍したものを、間に綿や和紙を挟み、アップリケのように縫い付けます。
これまで作った化粧まわしは約300。相撲を見る時、自分が作ったまわしを付けた力士同士が闘って、どちらかが負けることになるのが、困ってしまうそうです。

見よう見まねで始めた「化粧まわし」作りは、一つ一つの仕事から学んだことが財産。「結局、仕事が仕事を教えてくれる、そういうことだろうと思うんです。一作を作るたんびに、前の作品よりももっと良いものとでもと…。その一歩ずつ、良いものに近いものが作れるようになる気がします」